ドイツワインを専門に輸入・販売をしている会社が、はじめて出店する直営のワインバーをつくりました。
デザインの相談を受けた時点では、出店場所はまだ決まっておらず、候補となる物件を一緒に見て回りながら、「ここならどんなことができるか」ということを話し合い、エリアや物件の条件を絞ってゆきました。
その物件探しの途中で、東日本大震災が起き、物件探しは一時中断を余儀なくされましたが、ようやく状況が落ち着いた9月頃に再開され、最終的に赤坂に出店することが決まりました。
震災からまだ半年程度しか経っていない当時は、都内でも塀や道路等、様々な場所に震災の爪痕ともいうべきひび割れた跡が生々しく残っていましたが、それら自然にできた模様の無作為な形や、力強さに面白みも感じていました。
そこで、震災後の困難な状況にあっても夢をもって前に進んでゆくクライアントの強さや、復興へ向けて動き出した日本の現状を、金継ぎを模した仕上げを使いシンボリックに表現してはどうかと考えました。
最初は、壁に施した仕上げに打撃を与え、リアルなひび割れをつくれないかと考えましたが、ひびを入れるバランスを考えてしまうことで逆に不自然なものになってしまうのではないかと思い、断念しました。
最終的には、自然に入ったひびを細かくトレースし、それを壁の大きさに合わせて引き伸ばしたものを基に壁を傷つけ、その傷を埋めてゆくことで金継ぎの壁を表現することにしました。
バーの命であるカウンターにはウォールナットの無垢板を使い、ひび割れの無作為な形に合うように、耳(木肌面の有機的な形)をあえて残して仕上げました。
東日本大震災は日本人であれば誰にとっても衝撃的な出来事であったと思いますが、当時はそれを起点として、様々なことが見直されるきっかけになるのではないかと感じていました。
割れた器の割れ跡を隠すのではなく、あえて金で装飾する金継ぎは、ただ器を元通りに復元するのではなく、元よりも価値のある新しい器として生まれ変わらせる行為であり、それを壁仕上げのモチーフとすることで、震災から復興する日本の未来を、お店のデザインとしてポジティブに表現することができたのではないかと思います。