東京都文京区で、住宅のガレージを改装して小さなパン屋さんをつくりました。
クライアントは都内のベーカリー数店舗でパン職人としてのキャリア積んだ後、奥様と二人で営むパン屋さんを開店することにしました。
計画敷地は文京区の白山という場所にあり、裏手には江戸時代に薬草園や、赤ひげ先生で有名な小石川養生所があったことで知られている小石川植物園があります。正面には、春に桜の名所として沢山の人が訪れる播磨坂さくら並木や、秋に美しい紅葉を見せてくれる銀杏並木があり、都心でありながら四季折々の自然を楽しむことができます。
お店のロケーションは、銀杏並木と播磨坂さくら並木とが交わる植物園前という交差点のちょうど真中辺りで、とても視認性の高い位置にあります。
現地調査の時、お店が接している銀杏並木を歩いてみると、道沿いには植木鉢や花壇を置いている住宅やお店がありました。
緑が多いこの地域の環境が、そこで生活をしている人達にとってただ享受されるだけの一方通行な関係ではなく、住む人達からも、自分達の敷地を使って、より緑を感じられる雰囲気をつくっていこうとしているように感じられました。
この「街とそこに住む人」、「公共空間と私的空間」とが密接に交わっている関係をお店のデザインとして表現することで、地域の人に愛され、この街を訪れる人にも立ち寄りたいと感じてもらえるお店となるのではないかと考えました。
お店の場所は、播磨坂さくら並木と、銀杏並木との交差点に位置しており、そのどちらの魅力も感じることが出来ますが、もう一つこの土地の大きな魅力の一つである小石川植物園は大通りから1本奥の通りに面しているため、その存在を感じることが出来ないのがもったいなく感じられました。
そこで、奥にある植物園の存在を感じさせるような仕掛けとして、入口のようなイメージで緑のアーチをつくり、播磨坂さくら並木と銀杏並木と植物園が一つの交差点で交差しているように感じさせることが出来ないかと考えました。
建物が道からセットバックした位置に建っていたため、道に寄せてゲートを作ると、ゲートと店との間に小さな公園のようなスペースが生まれました。
店舗内部の接客カウンターは店の外までつなげるように設置し、公園の中にある売店やコーヒースタンドのように、思わず立ち寄りたくなるような雰囲気づくりを目指しました。
商品であるパンを引き立てることを考えた店内のインテリアは、落ち着いた木目の無垢材が持つ自然な雰囲気を活かしてつくった家具と、白磁タイル、モルタルのみというシンプルな構成でデザインしました。
厨房を除けば5㎡に満たない小さなお店ですが、このエリアの特性を一つの交差点の中で視覚化する為の鍵となるようなお店をつくることが出来たのではないかと思います。