深沢の家は、道路から細い路地状の通路と階段を登った土地にひっそりと建っていました。
敷地延長や旗竿敷地と呼ばれる土地に建っていることで、既存建物は隣家に囲まれ、南側に小さな庭があるものの1階までは陽が差し込まないため、室内は暗い印象の家でした。
そこで、周辺の立地環境に適応した明るい住まいへと変換するため、南側の庭部分にあえて建物を増築することにより、路地や隣家との隙間を介して外光を内部に取り込むよう計画しました。
家の中心に設けた階段と吹き抜けは、上下階をつなぎ、各生活スペースに光や風や人の気配を伝える役割をはたします。
また、階段を取り囲むように配置された生活スペースは、それぞれ借景を楽しめる場所や、近くに隣家などの遮蔽物がなく空が大きく見える位置に開口部を設けることで、閉塞感のない広がりのある空間としました。
更に階段の縦方向の抜けを利用して2階の光が1階までやわらかく届くよう、手すり壁に光を拡散させる素材として特注のタイルを張りました。
このタイルは、古くからやきもので栄えた、愛知県の常滑市の窯元と共同で開発したもので、急須づくりで用いられる伝統的なチャラ(薄い釉薬をかける)という技法を応用し、土そのものの質感や、やわらかさを残したタイルです。
自分の好みに応じて磨きを加える事で表情が変化するため、仕上がりのムラや個体差が逆に魅力となったり、均一に光沢が出ないことで光の揺らぎがうまれるようにつくられています。
リノベーション前は庭にしか届かなかった光や風も、増築部から吹き抜けを介して、家の中にまわり込み、家の周辺に埋もれていた余白が、暮らしの中に取り込まれた健やかな住まいへと生まれ変わりました。
旗竿敷地は、主に都心に近い住宅地において土地の分割と取引が繰り返される中で生まれてきました。
周囲を囲まれ、立地の悪さから一般的に敬遠されがちですが、逆にその囲まれた立地は、周辺の環境に対して高い影響力を持っているともいえると思います。
このプロジェクトでは、事業主でクライアントでもある株式会社リビタと共に、都心部に多く点在しながら住環境として低評価を受けがちな旗竿敷地の環境解決を密集地の住環境改善のカギと捉え、住宅の改修を通して旗竿敷地に新たな価値を創出することを試みました。
2018年にこれらの取り組みが認められ、GOOD DESIGN AWARD 2018にてグッドデザイン賞を受賞することができました。