背景
「特別養護老人ホーム しらひげ」は、東京都墨田区東向島に計画した都市型の介護福祉施設です。
日本では、65歳以上の高齢者数は今後も増加し続け、2042年にはピークを迎えると予測されています(65歳以上の人口は3626万人で全人口の39.4%、75歳以上の人口は2401万人で全人口の26.1%、2055年には75歳以上の人数は人口の25%となる見込み)。
要介護認定率が高い後期高齢者と呼ばれる75歳以上の人口は、今後も東京都等の大都市部で著しい増加が予測されており、都市部での高齢者施設の必要性は今後も高まり続けることは明らかです。
本計画では、大きな土地を確保することが難しい、建物が密集している、周辺に自然環境が乏しい等の環境的要因から、眺望や彩光などが十分に獲得し難い都市部において、如何に良質な住空間を実現するかということを一つのテーマとして考えました。
プラン
敷地は広く接道している北側から、建物が密集している南東側に向けて歪に長く伸びた形状をしており、必然的に建物は横長の形となり、北西と南東に個性の異なる2つのユニットをつくる構想が生まれました。
1階は、北東側にショートステイ11床、中央にエントランスホールと災害拠点型地域交流スペース、南東側に調理室、事務室、更衣室室などのスタッフスペースがあり、2階は、仕切りがなく、全体が繋がった従来型多床室30床、3階から5階は、中央の準公共スペースを挟んで北西と南東にそれぞれ12床のユニットをつくる計画としました。
接道している北側以外は建物に囲まれている為、3階までは隣接する建物によって眺望や採光が妨げられてしまいがちです。そのため、2階は間仕切りのない一続きの空間とすることで、水平方向への解放性を持たせ、中央には1階との間に吹き抜けを設けることで南側に開口部を設けられない閉塞感を和らげるようにしています。
また、2階の従来型多床室は、将来的にそれぞれが独立した個室に改修しやすいように計画しています。
インテリアデザイン
「彩り」「明り」「繫り」「賑い」を掌る4つのデザイン要素
背景でも述べた都市で特養を計画する上での制約を軽減する為の4つのデザイン要素を考え、それらを計画に組み込んだ
・生活を彩り、愛着を感じるデザイン
各居室の建具をランダムに塗り分け、それらが面する共同生活エリアに彩を与えつつ、入居者それぞれが自分の居室を自分の住まいと認識し、愛着を感じることができるようデザインしました。
・採光イメージを助長するフロアデザイン
周囲を建物に囲まれていることで、場所や時間帯によっては窓から十分な採光が望めないことから、窓に近づくにつれて床面が明るく見えるように異なる床材を貼り分け、自然光が差し込むイメージを助長できる床をデザインしました。
・外とのつながりを感じるライン
周囲を建物に囲まれ、眺望が望めない環境下でも、施設の外との関係性を感じることができるように、スカイツリーや富士山、浅草寺、草津温泉など、誰もが知り、また、思い出として記憶の中にあるような場所をアイコン化し、それらの方向を示すサインを床面に施しました。
・賑わいを演出するライティング
ユニットの中で他の入居者や介護スタッフと共に生活をする楽しさを、人と人が交わることが想定されるスペースの天井に小さなシーリングライトをリズミカルに設置することによって表現しました。
外観デザイン
土地の過去、現在、未来を結ぶ外観デザイン
行灯スクリーン
多くの文士が通った頃の街の風情や、祭りを愛する東京の下町の土地柄を、行燈の灯りのような柔らかな光を使い表現しました。
ランダムに配置された複数のスクリーンは、施設と近隣との双方に対して、圧迫感を感じさせずに程よくプライバシーを保つ目隠しとしても機能します。
白鬚線の歴史サイン
かつてこの場所に実在した京成白鬚線という路線の説明と、当時の路線図や写真等の資料を陶板製のサインパネルとして展示し、地域の人にも見て、楽しんでもらえるようなコーナーとして地域に開放しました。
支柱には、実際に使われていた線路を使用し、過去と現在を繋ぐものとして保存を兼ねて展示できるようにしました。