東京都中野区で長く地元の医療を支えてきた医院(内科・循環器内科)が新たに新設する分院を設計しました。
既存医院の向かいに建つ古い木造戸建て住宅をリノベーションし、地域の新たなニーズに応える医療空間へと再生させる計画です。
対象の住宅は昭和44年に建てられたもので、構造補強をも含めて全体を改修するにあたり、内外装を解体し、構造体を露出させて目視による調査を行いましたが、既存構造部材は全体的に柱や梁が細く、華奢な印象を受ける構造体でした。
計画する間取りに合わせて一部の柱を撤去・移動することに加えて、柱を追加したり、構造上で必要寸法以上梁成を確保するために、部材を付加して補強したり、より強固な梁に入れ替えたりと、構造補強を行いました。
道路側には過去に増築をしたような痕跡もあり、増築部分の基礎はコンクリートブロックを積んだだけのものであったため、ジャッキを使って上に載る構造体を一時的に持ち上げ、布基礎を新たに新設して固定し直しました。
既存の階段は蹴上が高く、踏面が狭い急勾配な階段であったため、階段に位置を変更し、受付の上を回るように上がって行く階段を新たに新設することで、限られたスペースを有効的に活用しています。
1階の道路側は、柱を避けるように配置した連続する窓を設け、明るく開放的な受付・待合スペースを作りました。
待合スペースの一角に設けたディスプレイ棚や、受付カウンター前面に貼られたモザイクタイルは、美容系の診療科目に対応していることを印象付けるものとして、通りからも見えるようにしています。
壁や天井の色はライトグレーとし、受付や階段、ディスプレイ棚などの際立たせたい箇所には白を採用したメリハリを感じさせる色彩計画としました。
2階は、1つの大きな空間を、カーテンを使って3つの施術スペースと1つのパウダースペースに区切ることができるようになっています。
建物の屋根形状によって1部天井が低くなってしまうことをカムフラージュすることと、より個室感を感じられるような意匠を兼ねたデザインとして、3角屋根が並ぶような天井の形状を採用しました。
また、患者様が仰向けに寝ることの多いことも考慮し、三角屋根を下から照明で照らし、その反射の柔らかな光で空間を包むようにしました。
これらの操作によって、狭くてもリラックスできるような施術スペースとなっています。
法的な要因から、既存の玄関周りや、長辺方向のバルコニーは撤去し、2階施術スペースの目隠しとしてパンチングメタルの壁を新たに設置しました。
計画の中で外皮と名付けられたこの壁は、施術スペースである2階の窓と、建物外部に設置されるエアコンの室外機などの設備機器やその配管を隠すものとして機能しつつ、曲線を取り入れた特徴的な既存病院の外観との関連性を生み出すためのものとしても機能しています。
白いヴェールが覆うように浮かび上がることで、見る人の興味を惹きつけるような魅力のある外装デザインとしました。
街と医院が紡いできたこれまでの歴史と、バージョンアップした新たな医院と街とのこれからの未来が確かに繋がっていると感じられるような景色をつくることが出来たのではないかと思います。