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2018.11.28 Press Report

「深沢の家」がリノベーションアワード2018にノミネートされました

「深沢の家」がリノベーションアワード2018にノミネートされました。

この住宅を計画することで、周囲を建物に囲まれたような環境でも、その逆境をひっくり返すくらいの心地よい居住空間を実現するためには、小さな打開策を一つ一つ根気強く見つけてゆき、それを地道に積み重ねてゆくことが大切だと感じました。

今日はそんな「深沢の家」の計画について、少し紹介をしようと思います。

現地内部で方位を合わせて模型を見る
敷地模型越しに現地を見る

深沢の家は、旗竿敷地と呼ばれる道路と細い道でつながる奥まった土地に建っています。このような土地に建築を計画する場合は、計画する土地と住宅だけでなく、周囲の環境も模型化することで、日光がどのように家の中に入り、どう広がってゆくのかを検証することができます。また、周囲に建つ住宅の開口部と、計画している住宅の開口部が被っていないか等、設定している開口部の位置がいいか悪いかが一目で確認することができます。

庭(リノベーション前)
庭(リノベーション後/ 増築部分)

もともと庭があった南側に建物を増築し、道路に向けて開いている通路から差し込む光を1、2階共に引き込む計画としました。

リノベーション前の住宅は、南側に庭を設けることで、敷地に隣接する建物からできるだけ距離をとり、南側に大きな開口部を設けることで日光を引き込むように計画されていたのですが、実際には2階は明るかったのですが、1階は庭側にせり出した部分が日を遮り、日中でも暗く沈んだ空間となってしまっていました。

南側の庭をつぶし、光を取り込みやすい場所にあえて増築をすることで、1、2階ともに明るい室内を実現するということは、言葉だけではイメージしにくいと思います。

南側に庭のような空間があったほうが、より室内に光を引き込むことができるようにも思えます。

深沢の家の場合は、迫り出した増築部分が道路方向に顔を覗かせていることで、東側の光を引き込むことができたことと、南側にハイサイド窓を設定することで、隣の家との視線を遮りつつ、南側の明るい光が入るようになっており、それら2方向からの光が開口部に隣接する白い壁や天井、床に反射して、空間全体をに明るさが広がっています。

2階キッチン横から南側のハイサイド窓と東側の大きな開口部を見る

また、暗くなりがちな1階をできるだけ明るくするために、大きな開口部近くの床をすのこ状につくり、2階の光が下階にも広がるようにしました。

1階土間西側奥から玄関ドアを見る

すこのを通して差し込む光と、東側の大きな開口からの光で、1階の玄関土間はとても明るく、半外部のようなイメージで植物を育てたり、雨の日でも子供が遊べる屋内庭として使うこともできます。

屋内をできるだけ明るくしたいと考える時、大きな窓を設ける以外にもたくさんの方法があると思いますが、今回私たちが使った方法は、屋内に入った光をできるだけ効率よく拡散させるために、屋内の壁の仕上げ色を白くし、光を遮るものを必要以上に作らない、もしくは光が通るようなつくりとしたことです。

2階南側から箱階段と北側の窓を見る

家の真中には箱のように四方を壁に囲まれた階段があります。この階段からは2階の北側の窓から差し込む柔らかな光が、階段を取り巻くタイル張りの壁により反射、拡散されて1階に広がってゆきます。

このタイルは、古くからやきもので栄えた、愛知県の常滑市の工房と共同で開発したもので、急須づくりで用いられる伝統的なチャラ(薄い釉薬をかける)という技法を応用し、土そのものの質感や、やわらかさを残したタイルです。
自分の好みに応じて磨きを加える事で表情が変化するため、仕上がりのムラや個体差が逆に魅力となったり、均一に光沢が出ないことで光の揺らぎがうまれるようにつくられています。

この住宅のように、採光ができる窓が限られており、それぞれの窓から入った光を、壁や天井、床に反射させて明るさを保つ家の場合は、光の当たる場所の素材の反射の仕方で印象がとても変わります。

クロスや斑が無く均一につくられたタイルのような素材よりは、塗装やこのタイルのように手仕事の雰囲気が残っているような素材を使ったほうが、時間や季節によって、より様々な表情をみせてくれるのではないかと思っています。

私達は、建築事務所というものは、一つ一つの案件に対して 様々な方向から検討し、これまでにないものを生み出すことが出来る点において、世の中の建築や空間を研究し、より良くするための アクションを起こす研究所のような役割を担っていると考えています。

リノベーションアワードの発表はまだもう少し先ですが、ノミネートされたことで、私たちの積み重ねた工夫やアイデアを多くの人に知ってもらうきっかけとなったことがとても嬉しいです。

今後も少しずつ、私たちが手がけてきた仕事を紹介してゆこうと思います。